毎年恒例!「野球書店」店主が2023年に読んだ野球本の中で一番面白かった一冊を勝手に選定!
大賞1作、次点4作を勝手に発表いたします!
忖度なし!
【大賞受賞作】
「野村克也は東北で幸せだったのか」
発売日:2023/1/28
著者:金野正之
出版:徳間書店
一昨年の『遺言』(飯田絵美/文藝春秋)、昨年の『砂まみれの名将 野村克也の1140日』(加藤弘士/新潮社)に続き、3年連続で野村克也を描いた作品の受賞になりました。
監督人生の最晩年を過ごした東北の地での、ユニフォームを脱いだ「人間・野村克也」が描かれた一冊。仙台でできた腕利きテーラーの有人、始球式をした車椅子の女性との交流、監督を解任された本当の理由、公表しなかった脳腫瘍手術・・・
グラウンドでユニフォームを着た野村克也は偉大な野球人でしたが、ユニフォームを脱げば一人では何もできないダメな爺さん。その落差がとても面白く、野村克也の人間味が溢れていました。
東北楽天・監督解任の原因が妻・サッチーにあったことを知らずに逝ったのか、知らない振りをして逝ったのか、そこも興味深い。野村克也を描いたノンフィクションにハズレなし!
本作を2023年の野球大賞本に決定いたします。
【次点作品】
「星野と落合のドラフト戦略 元中日スカウト部長の回顧録」
発売日:10/5/2023
著者:中田宗男
出版:カンゼン
星野仙一、落合博満という稀代の名将をスカウト部長として支えた中田宗男氏のスカウト人生回顧録。下っ端スカウト時代も含めた38年間のドラフトを1年毎に丁寧に振り返り、中日が指名した選手の評価、裏話はもちろん、他球団が指名した逸材選手達についても、中日はなぜ指名しなかったのか、指名できなかったのかまで触れられており、中日ファン以外が読んでも楽しめる一冊。
本書の帯に書かれた『星野さんは人を残し、落合さんは結果を残した』のキャッチコピー通り、星野は目先の優勝を目指しながらもチームの5年後、10年後も見据えるGM的な視野も併せ持つ稀な監督だった一方で、落合は数年後よりも目先のシーズン優勝に全てを注いだ監督だった。「未来と現実」。この2つの間で苦悩、葛藤した中田氏の苦労がよく伝わってきた。スカウト部長が赤裸々に舞台裏を明かしていることから、ドラフトにおける資料的価値も高いといえる一冊。
「江藤慎一とその時代 早すぎたスラッガー」
発売日:2023/3/2
著者:木村元彦
出版:ぴあ
江藤慎一の現役時代を知らない店主にとっては、「なぜ今、この人の本なのか?」という疑問があった。だが、このクールな装丁に惹かれて「ジャケ買い」感覚で手に取り読んでみると、「こんな選手を歴史の中に埋もれさえてはならない」という著者の熱い思いが伝わってくる気がした。
あの時代に、誰よりも暴力を否定していた江藤が、全てを捨てて江藤を支え続けた最側近の人間には時折手を挙げていたという、ラストのエピソードではちょっと胸が痛くなった。
江藤慎一という大打者に再びスポットを当てたことにより、この大打者の残した成績、そしてプロ野球にとどまらずアマチュア野球の発展にも寄与した功績が後生に語り継がれることでしょう。中日ドラゴンズの球団体質がこの当時から変わってないことも窺い知れる、読み応えのある一冊。
「アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち」
発売日:2023/3/29
著者:鈴木忠平
出版:文藝春秋
「あー、これは絶対に面白い本だ」そんな嗅覚が発動した、『嫌われた監督』の鈴木忠平氏の著書。
プロ野球選手はほとんど登場しませんが「ボールパークを創りたい!」その夢を北海道で実現した男たちの物語」。ほとんどNHKの『プロジェクトX』。
球場移転については、札幌ドーム側(札幌市)の高飛車な態度、役人的姿勢にファイターズが愛想を尽かし、北広島市に出て行ったというのがパブリックイメージかと思いますが、札幌市側にだって、役所の人間にだって、なんとかファイターズに札幌に留まって欲しいと東奔西走し、汗を流した人物もいたのです。また日本ハムの本社側にだって移転に反対する人物もいました。彼等の信念が交錯する、熱い人間ドラマを描いた一冊。
余談のように書かれた、新庄に監督を打診した際の「殺し文句」にグッときた。
「名将前夜 生涯一監督・野村克也の原点」
発売日:2023/3/1
著者:長谷川晶一
出版:KADOKAWA
ヤクルト監督に就任する直前まで、中学硬式野球チーム『港東ムース』で野村克也が監督を務めていたことは、妻サッチーが同チームのオーナーを務めていたことに比べると、知る人は少ないのではないでしょうか。そんな野村と、野村の薫陶を誰よりも早く受けた少年の物語。野村克則、井端弘和、G.G.佐藤、団野村、ケニー野村など、関係者の証言から野村と少年たちの濃密な日々を描いたノンフィクション。
未だに破られていない「全国大会4連覇」という偉業。中学生だろうがプロだろうが、野球を教え、野球を上手くさせる、チームを勝たせるという監督しての野村の手腕の凄さ。そしてサッチーという強烈なオーナーがもたらす光と影。『名将前夜』というタイトルに相応しい読み応えのある作品。
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