■店主推薦本(10)
「俺たちの『戦力外通告』」
(著者:高森勇旗/出版社:ウェッジ/価格:1404円 Kindle版:1300円)
店主の感想
自身も「戦力外通告」経験者の元横浜ベイスターズの高森勇旗氏が、総勢25人のプロ野球選手たちに話を聞き、「戦力外通告」という彼らが経験したドラマを丁寧に描いています。
まず本書に登場する元選手たちの豪華な顔ぶれをご覧ください。
松家卓弘(元横浜、日本ハム)
井川慶(元阪神、オリックス)
奥村武博(元阪神)
山﨑武司(元中日、楽天など)
石井琢朗(元横浜、広島)
川上憲伸(元中日)
中村紀洋(元近鉄など)
渡辺俊介(元ロッテ)
岩村明憲(元ヤクルト、楽天)
屋鋪要(元大洋、巨人)
G・G・佐藤(元西武、ロッテ)
マック鈴木(元オリックス)
鉄平(元中日、楽天など)
小早川毅彦(元広島、ヤクルト)
門倉健(元中日、近鉄など)
佐野慈紀(元近鉄、中日など)
関屋智義(元横浜)
田中一徳(元横浜)
瀬間仲ノルベルト(元中日)
小林敦司(元広島、ロッテ)
南牟礼豊蔵(元オリックス、中日など)
真木将樹(元近鉄、巨人)
生山裕人(元ロッテ)
竹下浩二(元大洋)
佐伯貴弘(元横浜、中日)
*本書掲載順
現役時代に一生使い切れないほどの大金を手に入れた選手。引退後も指導者、解説者として野球に関わって生きていく選手。それらはほんの一握りの選手だけでしょう。「戦力外通告」を受けたほとんどの選手が、これから始まる第二の人生=セカンドキャリアという、未知の世界と向き合わなければならないのです。
本書に登場する人物でもっとも成功したセカンドキャリアを歩んでいるのは奥村武博でしょう。岐阜県立土岐商業からドラフト6位で阪神に入団。1軍経験のないまま4年で戦力外になると、引退後は打撃投手に転身。しかしそれも1年で再び「戦力外通告」を受けてしまいます。この時点でまだ23歳。他球団で働く道もあったそうですが「若いうちに外に出た方がいい」と野球界を去ることを決めました。後になって考えれば、この決断はその後訪れる成功への第一のターニングポイントでした。
球界を去った奥村は、知人とのバー経営などを経て、高校時代に取得した簿記の資格を活かすべく会計士を目指します。しかし、会計士はそう簡単になれるものではありません。簿記1級に合格し、会計士の一次試験には合格したものの二次試験には何年も落ち続けました。もう会計士は諦めてコンサルタントに転職しようと決意し、奥村は胸の内を妻に打ちあけます。
「野球も会計士も中途半端な人間にコンサルされたい人なんていない。このままいったら、壁にぶつかる度に逃げ出す中途半端な人生になる」
妻の言葉で奥村は目が覚めたのでした。これが第二のターニングポイントでした。
その後、奥村は足掛け9年をかけて二次試験に合格。監査法人での2年間の実務も終え、正式に公認会計士となることができました。元プロ野球選手としては前人未到の快挙です。
一方、引退後も野球解説者という職につけた「一握りの選手」の一人が川上憲伸です。
中日が強かった時代を象徴するエースとして活躍した選手ですが、挑戦したメジャーリーグでは中日時代のような成績を残すことはできませんでした。中日に復帰後も全盛期のような活躍を見せることはできず、球団から「戦力外通告」を受けてしまいます。現役にこだわった川上はコーチ要請も断り、所属球団のないままトレーニングに励み現役復帰を目指します。しかし、結局復帰することは叶わず昨年3月に引退を表明しました。中日一筋で現役を終えていればまた違ったユニフォームの脱ぎ方もあったように思います。一時代を築いたエースにしては寂しい幕引きとなりました。
振り返れば「メジャーリーグ挑戦」から川上のキャリアがおかしくなっているのですが、その挑戦の動機は「アメリカで生活してみたかった」からなのだそうです。これには中日ファン歴ウン十年の店主もズッこけました。そして自身の挑戦を「単純に知らないことが多すぎた。メジャーで野球をやる準備には程遠い状態だった」と振り返っています。川上は「準備って大切だよ」という、小学生でも聞き流しそうな教訓を身をもって我々ファンに教えてくれたのでした。
ここでは対照的な2選手を紹介しましたが、このような様々な「戦力外通告」をめぐるドラマがこの本には詰まっています。一人あたり大体6ページくらいにコンパクトにまとめられているのでスラスラ読み進めていくことができます(大事です!)。
昨年発売の本ですが読書の秋のお供にぜひ!
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