【感想】「オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 」(2020/4/3発売)

昨年の野球書店大賞受賞作『下克上球児』の著者・菊地高弘氏の新著「オレたちは『ガイジン部隊』なんかじゃない!」(インプレス/1500円)を読みました。

錦織圭が島根で生まれ、青森山田高校に進学したことを「テニス留学!」と批判した声を聞いたことがありません。
宮里藍が沖縄で生まれ、東北高校へ進学したことを「ゴルフ留学!」と批判した声を聞いたことがありません。

なぜ、高校野球では大阪に生まれた野球少年が青森の高校へ進学すると「野球留学!」と批判されるのでしょうか? 
なぜ、高校野球は部員の多くを他県出身の選手が占めると「ガイジン部隊」と揶揄されるのでしょうか?

そもそも「ガイジン部隊」とは何なのでしょうか? wikipedeiaには「強豪校がその学校のある地域外から優秀な選手を集めて強化した結果、地域外出身選手がチーム内で多数を占めるようになることへの比喩・侮蔑表現」とあります。

高校野球において「ガイジン部隊」という言葉がはじめて用いられたのは、昭和53年の倉吉北(鳥取)と昭和55年の江戸川学園取手(茨城)だと言われています。

特に江戸川学園取手は開校と同時に茨城県外から優秀な中学生を100人スカウトして部員120人の大所帯を築いて甲子園出場を果たした結果、地元新聞には「外人部隊で構成される江戸川学園はその在り方をめぐって本県高校野球界に一石を投じている」とまで書かれて批判されました。
(江戸川学園取手はその後甲子園に出場はできていませんが今日では茨城県内No.1の偏差値を誇る進学校になっています)

本書では大阪から岩手の盛岡大付属に野球留学した選手が「このガイジン部隊が〜」「よっ!横浜瀬谷ボーイズ!」とグラウンドで野次られた体験が語られていますが、この手のヤジを飛ばすおじさんをスタンドで見かけたらその容姿をよく観察して見てください。

大手企業でバリバリ働き世界を飛び回っているタイプに見えますか?
異国の貧しい子ども達に思いを馳せて胸を痛めるタイプに見えますか?
伊達直人と名乗り児童養護施設にランドセルを寄付するタイプに見えますか?

昼間からパチンコ屋に並んでいるタイプに見えませんか?
歩きタバコをして平気でポイ捨てするタイプに見えませんか?
匿名でヤフコメにヘイトコメント書いているタイプに見えませんか?

こういったおじさん達は総じて年収が低いです。
ヤジっている回数と年収の低さが反比例するからです。
根拠はありませんが間違いありません。
コロナが落ち着いた頃にはコロンビア大学かエール大学辺りがその因果関係を証明してくれるはずです。
今はコロナの終息を待ちましょう。

さて、本書では盛岡大付属の他にも、八戸学院光星(青森)、健代高崎(群馬)、帝京(東京)、滋賀学園(滋賀)、石見智翠館(島根)、明徳義塾(高知)、創成館(長崎)といった甲子園でもおなじみの強豪校が登場しますが、店主が一番興味深かったのはColumn扱いで登場する島根中央の章です。
聞いたことがない高校ですが、公立高校なのに野球留学生を積極的に受け入れています。なぜか? それは地域の過疎化によって生徒が集まらないからです。

過疎化が進む島根県では公立高校全22校で積極的に県外生を受け入れているそうです。島根中央の野球部員56名の半数も県外生だといいます。地元の高校の廃校を防ぎ、町に活気を呼び込んでいるのは野球留学生達なのです。
創成館の監督も、長崎県内の子を勧誘しにくい理由を次のように語っています。
「地元の高校が部員不足に陥っているから」。

上記で紹介した高校のほとんども過疎化とは無縁でない地域の高校だということも、とても興味深い事だと思います。「野球留学」と一言でいっても、これまでとは違う色々な事情や意味合いを含んでいることが本書を読むとよく分かります。

時代は昭和でもなければ平成でもない、もう令和です。「BODY&SOUL!」と歌い踊っていた女の子が国会議員になって不倫をする時代であり、「メロリンキュー!」をやっていた人が野党の党首になる時代なのです。

そんな時代に高校野球はいつまで「ガイジン部隊」「野球留学」などと言っているのでしょうか?

我が町、我が県には県外から子ども達が集まってくる高校がある。
そのことをおじさん達が誇らしく思える時代になって欲しいなと、本書を読んで思いました。

菊地高弘
インプレス
1650円

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