【書評】「ベイスターズ再建録 『継承と革新』その途上の10年」(二宮寿朗/双葉社)

【書評】「ベイスターズ再建録 『継承と革新』その途上の10年」

球団再建に奮闘したスタッフ達の記録

6月を終えて借金12に低迷する今季のDeNA。
このタイミングで『ベイスターズ再建録』というタイトルの本はどうなのかな……。
いかにもタイミングが悪いなぁ。

そもそもベイスターズの「再建」は前社長の池田純さんが『横浜ストロングスタイル』(文藝春秋)で散々語っていますし、OBや関係者に話を聴いた本はベイスターズファンの村瀬秀信さんが『4522敗の記憶』(双葉文庫)を出しています。

なのになぜ今この本なのでしょうか?
そんな冷ややかな視線を送っていた一冊ですが、『進撃の巨人(34巻)』を買いに行った本屋でたまたま見つけ、パラパラとめくってみると、これが思いがけず面白く一晩で読んでしまいました。
社長でもなく、OBでもなく、ファンでもなく、変革のまっただ中にいた球団スタッフ達に話を聴く。なるほどそんな切り口だったのですね。
大洋時代からのスタッフ、TBS時代からのスタッフ、DeNAからやってきたスタッフ、買収された横浜スタジアムのスタッフ。彼等が1つの組織に融合し、長期低迷していた球団を「チケットが取れない人気球団」に変貌させた。その奮闘の記録がここにありました。

個人的には中畑清の男気にグッときました。
高田GMからの監督就任打診の際の対応、沈みきっていた球団スタッフに対する喝、負けてもメディアの前に立ち続けるサービス精神、どんなファンサービスにも協力するが野球へのリスペクトを欠いた企画だけは許さなかった野球愛。

なかでも次の言葉に心が痺れました。

「会社の人がこれだけ頑張って満員にしてくれたんだ。全員、並ぶぞ!」

これは就任2年目の夏、中日3連戦で行われたイベント「STAR☆NIGHT」の際の中畑監督の言葉です。
ナイター終了後に照明を暗くして観客がペンライトを照らすなか、監督、選手がグラウンドに出てセレモニーが行われる予定でした。しかし、この日は6回まで12失点を喫して中日戦3連敗。当然ファンのフラストレーションは溜まります。
イベントが始まると案の定スタンドからはペンライトが投げ込まれ、怒声や罵声が飛び交いました。
この状況を見たチームの意向は「監督や選手は出ない方がいい」。しかしイベント担当者からすれば、最後に監督、選手が挨拶をしないとイベントを締めくくれません。かといってグラウンドに出てくださいとも言い出しにくい状況。

そんな中での中畑監督の上記のことばでした。
いい人です。
伝統球団出身の外様ながら、ファンや球団関係者に愛された理由がよく分かります。

この本を読んで思ったのは、旧態依然とした既存の球団組織には先進的すぎるくらいのIT企業が経営に参画するくらいがちょうど良い組織になるのかもしれない、ということでした。

中日球団を買収してくれるIT企業、どこかにないでしょうか?

二宮寿朗
双葉社
1760円

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

2024年3月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031
ページ上部へ戻る