かつての「鬼」も今は気さくな名指導者

これまで監督として指導してきた、公立高校2校を含む4校を甲子園に導いた実績を持つ持丸修一監督(専大松戸)が自身の指導者人生を振り返った本です。

4校で甲子園出場を果たしたのは長い高校野球の歴史の中でも二人しかいないそうです。ちなみにもう一人の監督は佐賀商、千葉商、印旛、柏陵の4校を甲子園に導き、81年にはセンバツ準優勝を果たした蒲原弘幸元監督。
*詳しくは2013年に出版された「野球導」(蒲原弘幸/日刊スポーツ出版社)でどうぞ。

29年前の夏、店主まだ中三のとき。
藁科(わらしな)という珍しい名前の投手が印象に残った龍ケ崎一高。その桼名は星陵高校2年生の松井秀喜に右中間にどでかいホームランを打たれた投手としてもずっと記憶に残っていましたが、そのチームを率いていたのが持丸監督だったことをこの本を読んで知りました。

現在72歳。この本の表紙は柔和な表情で孫のような選手達をみつめる持丸監督の写真です。「好好爺 画像」でググったらトップに表示されそうな写真です。しかしこの年代で名の知れた高校野球の監督は、若かりし頃は大抵「鬼の○○」の異名をとった方が多いものです。ご多忙に漏れず持丸監督も「鬼の持丸」と恐れられた存在だったそうです。

「当時の練習は今思い返してみると、むちゃくちゃなことをやっていた。もう、人前で話すのが恥ずかしいくらいの苦い思い出だ。本当に恥ずかしい。日曜は朝から晩まで練習するのは当たり前だが、長時間の正座を命じるペナルティも強いていた。それが精神力を鍛えると思っていたからだ」(本文より)

しかし、店主に言わせればその程度のことでは「鬼」とは言えません。本当の鬼とは、この人達のことを言うのだと思います。

ノック中にボールが当たって歯が折れた選手に歯も拾わせずに強烈なノックを浴びせ続け、ミスした選手の顎の骨が折れるまで殴り、その顎が折れた選手に「ボールを口でくわえてかごに入れろ」と命じ、センバツでは爪が剥がれた指をテーピングしていた選手に「そんなもんはいらん!さっさととれ!」とテーピングを剥がしてプレーをさせたなど(参考「失われた甲子園」赤坂英一/講談社)、数々の『本当にあった怖い話』を持つ東邦高校の阪口慶三前監督(現大垣日大監督)。
*注意:当時の選手達はそんな阪口監督をいまも慕っています。

地方予選前に炎天下で100mダッシュを100本単位で行わせたり、未だに「高野連に年間5万払うから1年で5発だけどつかせる許可をくれ、って思うこともあった」(参考:「一徹」谷上史郎/インプレス)とうそぶく高島仁智弁和歌山前監督。

この二人に比べれば持丸監督はauのCMに出てくる「鬼ちゃん」レベルに思えてしまいます。

俳優・菅田将暉さん演じる「鬼ちゃん」

まだ監督としての実績も何も無かった1979年ー
そんな持丸監督に、「鬼神」と恐れられた山のフドウが幼きユリアとの出会いをターニングポイントに心優しき大男に生まれ変わったレベルのターニングポイントが訪れます。それはあるコーチの言葉でした。

「おめぇよ、あの選手はバントができないとか、あいつが打てばとか言うけど、その選手を使ったのは誰なんだ? 育てたのは誰なんだ? よーく考えてみろ」(本文より)

その言葉をきっかけに、持丸監督は「野球をやるのは監督ではなく選手」であることに気づいたのです。

南斗五車星の一人、山のフドウ(左)。右はユリア。

その後、時間はかかりましたが、90、91年に竜ケ崎一、01、03に藤代、05、06、07年に常総学院、15年夏に専大松戸をそれぞれ甲子園に導いています。その間には千葉ロッテで活躍する美馬学、日本ハムの上沢直之、ソフトバンクの高橋礼など多くのプロ選手も輩出。好投手を育てる手腕にも定評があります。

しかし、そのことについて本書ではこのように語っています。
「”育てる”というほど傲慢な言葉ない。選手が自らうまくなろうとして努力した結果、彼らは自身の力で育っていったのだ」(本文より)
そこにはかつての「鬼の持丸」の姿は微塵もありません。

ちなみに藤代時代、期待されながら夏の県予選初戦で敗退してしまった代があったそうです。しかしその代の保護者達とは仲が良く『あの夏はなんだったの?』という会を結成し、昨年夏は監督の奥さんも含めて総勢30名で北海道旅行を楽しんだそうです。そんな気さくな名将がいるでしょうか? 昨年春夏甲子園を逃した大阪桐蔭の西谷監督がその保護者達と仲良く北海道で夕張メロンソフトクリームを頬張る姿が想像できるでしょうか?(できなくもないかな…)

そんな持丸監督は今夏の代替大会でも決勝までチームを導きました。残念ながら木更津総合に敗れてしまいましたが、それを知って残念に思っている自分がいました。どうやら本書を通じて持丸監督のファンになってしまったようです。

すぐ近くの川を渡れば千葉県という東京の葛西に5年住んでいたことはありますが、千葉には縁もゆかりもありません。当然千葉の高校野球にも特に思い入れはありません。しかしこれからは明確に応援するチームが決まったように思います。

「信じる力」

持丸修一
竹書房
1980円(Kindle版 1980円)

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