【書評】「稼ぐ!プロ野球」(喜瀬雅則/PHP研究所)

稼ぐ!プロ野球

読めば読むほど中日が心配に……

3月に発売された本ですが、高木大成著『プロ野球チームの社員』(ワニブックス)を読んでこちらの本にムラムラと興味がわき、5月に読むとまんまと月間MVPに選ばせて頂きました。Amazonで「ベストセラー」マークが付いているのはダテじゃないですね。

セ・リーグの球団ビジネスは巨人戦の放映権頼み、巨人戦の恩恵に預かれなパ・リーグの経営はどこも厳しく……そんな時代を知らない若いプロ野球ファンも多いかもしれません。この本『稼ぐ!プロ野球』では、著しく進歩した各球団の最新球団ビジネスの事例が豊富に紹介されています。

店主は中日ファンですが各球団のSNSなどは日頃からチェックしています。中でも最近のオリックスは色々と面白いことを仕掛けていると感じていたのですが、読んでなるほど納得できました。
また、ドーム球場のはずなのに春は寒くて夏は死ぬほど暑く、「二度と来るかよ!」と恨み言の一つも言いたくなる西武ドームの大改修の紹介も興味をそそられました。この夏にどんなものなのか行ってみようと思います。

この本を読んで改めて思ったのは、球団ビジネスで大事なのは自前の球場を持っているかどうかということです。なぜなら「ハードとソフトの一体経営」ができるから。現在自前の球場を保有しているのはソフトバンク、西武、オリックス、阪神、DeNAの5球団。それに準ずる形で「指定管理者制度」により自治体に一定金額を払い、運営・営業の権利を得ているのが楽天、ロッテ、広島の3球団。
これに対して、別会社の球場を使用料を払って使っている「昭和な体質」なのが巨人、ヤクルト、中日、日本ハムの4球団。
このうち、日本ハムは23年に自前の新球場を建設予定であり今後の球団ビジネスの展望は明るく、巨人は都心のど真ん中に球場がある超人気球団であるため経営の安定は今後もしばらく続くと予想ができます。

そうなると取り残されそうなのが中日とヤクルトです。
特に危ないのは中日です。親会社の中日新聞はマーケットが東海地区ローカルであり、新聞業界自体が斜陽産業。今後親会社の成長力はないに等しい状態です。
観客動員数も「客が呼べない」という建前で落合監督を追い出してから昨年までの9年間、最も観客を集めたのが19年の228.5万人ですが、それまでの7年間の平均は204.8万人で落合政権8年間の平均230.5万を25万人も下回っています。球場が巨人よりもさらに都心にあり、12年以降の観客動員も右肩上がり、親会社のマーケットが地球規模のヤクルト様とは危機度が違います。

本書では中日が松坂グッズで1億円を荒稼ぎしたことが成功事例として紹介されています。確かにビジネスチャンスを逃さなかった営業本部企画営業部課長の北野勝則氏(かつてのワンポイントリリーバー!)の判断は見事だったと思います。しかし、それは松坂という人気選手があっての話しです。他の選手で再現できなければ意味がありません。もっといえば、楽天やDeNAであれば1億どころか数億を売り上げていたのではないかと思います。この辺りに中日球団のぬるま湯さを感じずにいられません。

長年プロ野球を見てきた者からすれば、現在のプロ野球の球団ビジネスは一昔前からは考えられないくらい進歩したと思います(中日を除きますが)。しかし、『稼ぐがすべて Bリーグこそ最強のビジネスモデルである』(葦原一正/あさ出版)を読むと、Bリーグがプロ野球のビジネスモデルを反面教師にしていることがよく分かります。プロ野球の球団ビジネスは過去に比べれば進歩ですが、他競技から見ればそれでも古くさく、遅れているのです。

今の時代、ライバルはBリーグやJリーグだけでなく、スマホ、ゲームなどもファンの時間を奪い合うライバルです。球団ビジネスにゴールはありません。この歩みを止めずに頑張ってもらいたいところです(特に中日には)。

喜瀬雅則
PHP研究所
1045円(Kindle:950円)

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