今月の一冊!「不登校からメジャーへ イチローを超えかけた男」

2019年9月に読んだ野球本の中から特に面白かった1冊を紹介します!

(著者:喜瀬雅則/出版社:光文社新書/価格:1100円)

店主の感想

ネットもスマホもなかった90年代前半。英語も喋れない野球少年が高校をドロップアウトして単身渡米したー

今風に言えば「消えた天才」ということになるのだろうか。日本人離れした豪快な行動力とその後の破天荒な野球人生。「イチローを超えかけた男」こと、根鈴雄次という男の、カルピスの原液を煮詰めたような濃厚すぎる半生を綴った一冊が「不登校からメジャーへ 〜イチローを超えかけた男〜」だ。

ちなみに「イチローを超えかけた男」というワードは根鈴氏の代名詞用のような存在になっているが、イチローの成績を超えかけた、という意味ではない。「イチローよりも先に日本人野手初のメジャーリーガーになりそうだった」という意味だ。

イチローとは同い年。中学時代から神奈川県下でその名を轟かせた少年は、進学した日大藤沢では入学早々に4番を任されるとデビュー戦で早速ホームラン。後にプロに進む2学年上の河野亮(現千葉ロッテコーチ)は、「一緒にプロに行こうな」とこの1年生に声をかけ、「これで甲子園にいける」と思ったという。根鈴少年はこの時点では「イチローを超えていた男」だった。

野球の技術だけでなく、根鈴少年はなかなか規格外な存在だった。BS放送が開始されたころ、メジャーリーグ中継で見たホセ・カンセコとマーク・マグワイア(共に当時アスレティックス)の衝撃的な肉体と、漫画「北斗の拳」に魅せられ、中学時代からボディービルジムへ通い、中学生離れした鋼の肉体を手に入れた。
しかし、高校入学後は朝食も満足にとれない早朝からの練習と非科学的な練習により、自慢のボディーはみるみるしぼんでいった。
相手が誰であろうと自分が信じた道を曲げることができない根鈴少年は、入部したての1年ながら「アミノ酸を摂取させて欲しい」「練習中に水を飲まないと危険です」と監督に直談判するという、後の人生を予見させる規格外の行動力を発揮した。
イチローも小さい頃から肉はヒレの上等なもの、魚はカレイや鯛などの高級な白身しか口にしないという変わった子だったのは有名な話だ。
根鈴少年とイチロー。2人は機関車トーマスとパーシーのように、プロ野球へと進む見えない線路の上を競って走っていたのかもしれない。

しかし、根鈴少年の列車は急に行き先を見失った。
多感な思春期という時期、家庭内のゴタゴタやあらゆる些細なことが積もりに積もり、あるときそれが一気に瓦解した。メンタルのバランスを崩し、学校へ行けなくなってしまったのだ。
根鈴少年は「不登校」となり留年した。野球からも離れた。
根鈴少年の列車は気がつけば脱線していた。イチローの列車は根鈴少年の列車を待つはずもなく、はるか遠くに走り去っていった。

その後、復学してもう一度高校1年をやり直した根鈴少年は、野球ができなくなった代わりに、そのモチベーションを勉強に向けた。気がつけば学年で1番になっていた。そして1年後に再び野球部に戻り、脱線した列車をようやく元の線路の上に戻した。
と思ったのも束の間、今度は乗っていた列車を飛び出し、飛行機に乗り変えて単身アメリカへ渡った。

ドラマ「東京ラブストーリー」が放送され社会現象を起こし、槇原敬之の「どんなときも」がヒットした年。ネットもスマホもSNSもなかったが、今ほど息苦しさのない、まだ牧歌的な雰囲気の残っいた時代。そんな時代に単身アメリカに渡る高校生が全国に何人いただろうか。なんと規格外な行動力だろうか。

その後の根鈴少年はアメリカで2年過ごしたあと、「最終学歴が中卒じゃどうにもならない」ことに気づき、一旦帰国。定時制高校を経て4年遅れで法政大学へ入学。当時の山中正竹監督(現侍ジャパン強化本部長)に直談判する形で野球部に入部した。4年時には26歳になっていたが副将を任された。余談だが、広瀬純(元広島)、GG佐藤(元西武)は大学時代に根鈴氏の薫陶を受けた「根鈴軍団」の構成員だ。
そして大学卒業後、再び渡米してメジャーリーグを目指した。

マイナーリーグで順調にステップアップした根鈴は3Aでも活躍し、いよいよメジャー契約が近づいてきた。しかし、その夢が叶う日はついに訪れなかったー

この本はあらゆる示唆に溢れている。

高校時代につまずいたぐらいで人生終わりじゃない。
周りの意見は関係ない。自分がどう思うか。
行動すれば道は開ける。

野球ファンはもちろんだが、不登校で悩んでる子ども、その親にもぜひ読んで頂きたい。そんな一冊だ。

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