夏を奪った後輩Kに「いま、会いに行きます」
「許す」は【相手の願いや申し出を受け入れる・認める】という意味で、「赦す」は【罪や過失を咎めないことにする】という意味があるそうです。
この本のタイトル『夏を赦す』の意味ー
それは1989年夏、岩本勉(元日本ハム)擁する阪南大高校が甲子園を目指す大阪府大会を出場辞退したことに関係しています。岩本たち3年生が問題を起こしたわけではありません。むしろ岩本達は同部にはびこっていた理不尽な暴力、上下関係を止めた年代でした。にもかかわらず、2年生部員Kが大会直前に近隣の中学校に侵入し、同校の教頭を殴るという事件を起こしてしまったのです。
今でも不祥事による大会出場辞退のニュースは時折耳にします。大会に出られない、それだけでも選手達には大きな問題ですが、問題はそれだけではないことをこの本を読んで知りました。
岩本のチームメイト達は大学でも野球を続けようとセレクションに挑みました。しかし、いくら良い結果を残しても皆不合格。なぜなら高校3年の最後の大会を辞退したため、彼等には競技実績がなかったから。結果、多くの仲間達が野球を続けることを断念せざるを得ませんでした。彼等には何の落ち度もないのに、後輩Kの不祥事によってある日突然、人生を狂わされたのです。
事件を起こしたKの両親は父母会でつるし上げにあい、多くの父兄の前で土下座して何度も何度も「申し訳ありません」と謝罪。同じ場所にも住めなくなり転居したともいいます。
高校野球における「出場辞退」とは単に大会に出場できないだけでなく、多くの人の人生を狂わせてしまうんですね。
この本は、ノンフィクション作家の長谷川晶一氏が岩本の同級生達に高校当時とその後の話しを聞く内容ですが、ページが進むにつれていつしか「K本人に会いたい」に内容が変わっていきます。そしてその内容は、岩本や同級生達から託された「もう俺らはなんとも思うてへんで」というメッセージを、長谷川氏がKに伝えることができるか? に変わっていきます。
Kに関する情報が何もないところからスタートし、本の終盤ではついに長谷川氏がKの家を突き止めることに成功します。そしてKの両親にも接触成功。
果たして、Kにメッセージを伝えることができたのか?
Kに話を聞くことができたのか!?
Kは多くの人達の人生を狂わせてしまったことをどう思っているのか!?
結末は如何に!!
この本の発売は2013年です。『野球書店』とか偉そうに掲げておきながら、店主はこんな面白い本の存在を知りませんでした。
世の中には埋もれた名作、埋もれた面白い野球本がまだまだありますね。
それを紹介してこその野球書店。
そんなことを思った一冊でした。
結末が気になる方は是非読んでください。
長谷川晶一
廣済堂出版
2980円
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