【書評】「戦士の食卓」(落合博満/岩波書店)

落合博満著「戦士の食卓」の書評

食を通じて見える、落合博満の振り幅の大きさ

なぜ落合が食の本を出すのか?
それは懇意にしているスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーから、同社発行の冊子『熱風』への連載を打診されたから。もっと遡れば、同冊子で落合はかつて映画評論の連載を行っており、新たに「食」をテーマにした連載を打診されたからなのだそうだ。

どこまで落合本人が調べ、書いているのか分かりませんが、その食のウンチクたるや、まるでグルメ漫画『美味しんぼ』の主人公・山岡士郎のようです。合の手を打つように本書に登場しては若かりし頃の落合の偏食ぶりや三冠王を支えた料理などを語る信子夫人は、最終的に山岡と結婚するということも含めて栗田ゆう子といったところでしょうか。

話が逸れました。
「グスマンという選手がいて、どうにもグリップの握り方が気に食わないので直させたら潰してしまった。申し訳ないことをした」などという野球の話は全体の3割ほど。
そんな数少ない野球の話の中でも一番面白かった、というより衝撃だったのは子宝に恵まれなかった頃、「落合の遺伝子は遺せてなくても彼の哲学のようなものは遺したい」という信子夫人がロッテの若手選手を養子に迎えようと画策していたというエピソード。めぼしい若手選手をジンギスカンに誘い、どの子がいいか物色をしていたといいます(そんなことをしているうちに福嗣くんを宿したそう)。今でもジンギスカンを食べるとその頃を思い出すのだそうです。食事に誘われていた選手もこの本を読んでひっくり返っていることでしょう。

野球の話は少ないけれど、それが気にならないほど落合が語る食の思い出話しとウンチクが面白い。何よりも「食」を通じて垣間見える「人間・落合博満」の奇妙な(?)姿が最高に面白いです。

東芝府中時代は粉末ジュースの素を白飯にかけて食べていた落合と、高級料理店で旬の魚の産地と料理法にもこだわる落合。

「出されたものは残さず食べる。それが食に対する私の基本姿勢だ」と語る落合と、初デート帰りに夫人の実家に上がり込み、お義母さんが作ってくれたきんぴら牛蒡を「大嫌いなので次からは出さないでください」と平気で言ってしまう落合。

「食べることに神経質になりすぎない方がいい」と語る落合と、キャンプ地での選手達の食事には質、品数、バランスなどホテルに細かく注文を出す落合。

この振り幅の大きさが落合博満という人間の魅力の一つなのだと思います。

人間・落合博満に興味がある人が読めば、楽しめること間違いなしの一冊だと思います。

「戦士の食卓」(落合博満/岩波書店)

落合博満
岩波書店
1650円

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