今月の一冊!「近鉄魂とはなんだったのか?」

2019年12月に読んだ野球本の中から特に面白かった1冊を紹介します!

(著者:元永知宏/出版社:集英社/価格:1870円)

店主の感想

店主には「近鉄バファローズ」と言われて思い出すいくつかのシーンがあります。
北川博敏のリーグ優勝を決める代打逆転サヨナラ満塁ホームラン、ドラフトで福留孝介を引き当てた佐々木恭介監督の「ヨッシャー!!」、スーパールーキー野茂英雄の活躍、加藤哲郎の日本シリーズ第3戦後のヒーローインタビュー、悲願のリーグ優勝を決めた阿波野秀幸のガッツポーズ、天王山・西武とのダブルヘッダーでのブライアントの4打数連続ホームラン、「10.19決戦」での鈴木貴久と中西太コーチの抱擁、試合後の金村義明の涙…(店主よりももっと古いプロ野球ファンには「江夏の21球」の相手という記憶もあるかと思います)。

これらは全て、プロ野球の歴史を彩ってきた名シーンだと思います。おそらく多くのプロ野球ファンも、同じようなシーンが記憶に残っているのではないでしょうか?

なぜ多くのプロ野球ファンは、ファンでもなかった近鉄の名シーンを覚えているのでしょうか? 
それはきっと、多くのプロ野球ファンにって近鉄が「二番目に好きだった球団」だったからではないでしょうか。

・絶対王者西武ライオンズに真っ向から挑み続けたチーム。
・ 豪快な「いてまえ打線」を誇りながら、あと一歩でいつも優勝を逃してしまうチーム。
・そして、ついに日本一になれなかったチーム。

こういった「近鉄らしさ」が、とても個性的で魅力的なチームに映り、自分が応援しているチームの次に好きだった球団だったのではないかと、店主は勝手に思っています(ちょっと近鉄の思い出を美化しすぎ?)。

そんな「近鉄らしさ」とは、とどのつまりは西本幸雄らしさであり、西本幸雄とその愛弟子、薫陶を受けた教え子たちが築いてきたものであるー

本書を読むと、そんな答えに辿り着きました。
上述の近鉄を象徴するシーンの数々。それらを監督として演出してきた仰木彬、佐々木恭介、梨田昌孝は皆、コーチ、選手として西本幸雄の薫陶を受けてきた教え子達なのです。

また、近鉄ほど監督が替わってもチームカラーがぶれないチームも珍しいなと本書を読んでいて思いました。例えば店主が応援している中日であれば、星野仙一時代と落合博満時代ではチームカラー180度変わっていましたが、近鉄は西本幸雄以降、打力を前面に押し出す野球をしてきたように思います。それもやはり、西本の薫陶を受けた教え子達(鈴木啓示も含む)がチームを率い続けたことと無関係ではないと思います。そこに、西本と教え子達の熱い師弟関係を感じずにはいられません。
特に近鉄最後の優勝監督梨田は、自身を「西本さんの分身」と言い、2001年の日本シリーズでヤクルトに敗れた当時を思い出し、当時81歳の恩師に対して「近鉄が日本一を獲る瞬間を見てもらいたかった。そのために野球をしていたようなところがあるからね」と語るなど、監督と選手以上の絆があったように感じました(ちなみにこの部分と、近鉄で苦労の末に優勝した西本の姿をみて、かつての教え子であり対戦相手の山田久志が「師匠、おつかれさまでした」と心の中で思ったという部分は本書の二大涙腺刺激ポイントでした)。

最後に本書の構成にも触れておきます。
1回の表から9回裏までイニングごとに章が別れています。それぞれの表の章では近鉄というチームの歴史を追いながら、裏の章では選手や関係者の証言をもとにその歴史の裏側を覗いています。裏の章には梨田昌孝、金村義明、岩隈久志、水口栄二、ラルフ・ブライアントなど、近鉄を支えた当時の監督、選手などが証言者として登場し、貴重な話を聞かせてくれています(例えば、ブライアントは「10.19決戦」の前日、「父危篤」の連絡を受けたにもかかわらず帰国を拒否して翌日の決戦に臨んだそうです。店主は30年の時を超えて胸と目頭が熱くなりました)。

しかし、この本の証言者には野茂英雄、吉井理人、阿波野秀幸、石井浩郎、佐野慈紀、赤堀元之、中村紀洋、タフィ・ローズ、石本貴文、大石大二郎、新井昌宏、中西太、立花龍司たちの名前がありません。
つまり、まだまだ「近鉄魂とはなんだったのか?」を語れる人物は沢山いるのです。ぜひとも、「延長戦」としてシリーズ第二弾の発売を望みます!

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