今月の1冊!「下克上球児」

2019年3月に読んだ野球本の中から特に面白かった1冊を紹介します!

「下克上球児」

(著者:菊地高弘/出版社:カンゼン/価格:1620円)

【店主の感想】

映画化はもちろん、ドラマ化、漫画化しても大ヒット間違いなし(?)の面白さ!

10年連続地方大会初戦敗退の弱小野球部。おまけに2時間に1本しか電車の来ない過疎地にある偏差値の低い底辺校。そんな地元で鼻つまみ者扱いだった高校の野球部がやがて過疎化地域の誇りに変わるまでを描いた、嘘のような、本当の話。

「リアルルーキーズ」と言われテレビ・新聞などでも話題になりましたが、実際はヤンキーにもなれなかった「ヤンチャ」な落ちこぼれの集まり。ただ、選手それぞれ、クセはありながらも根は素直。野球の能力も欠点を抱えながらも「一芸」に秀でた選手も多くいました。
そんな選手達に自分のやり方を押し付けるのではなく、「彼らの目線」にまで降りて辛抱強く接し続けたのが東監督。前任の公立高校では三重県大会ベスト4にまでチームを導くなど、熱意と実績を兼ね備えた監督さんです。

白山高校の何が面白いかと言えば、選手それぞれの豊かなキャラクター。そして試合で起こった様々な奇跡。

例えば、ファーストの有森。甲子園をかけた大事な大会で何でもない送球をポロポロとエラーをする。激怒した監督が改めてグローブを見てみると、そのミットは「後輩に借りた」というペラペラの軟式用ミット。大会直前にサードからコンバートされ、後輩のミットを借りていた有森は「まぁ、これでいいか」と深く考えることもなく使っていました。その後、コーチに借りた硬式用のミットを使用し「硬式用って捕りやすいなぁ」と大会中に感動……

そして、バッティング能力はチーム1なのにことある毎に野球部を辞めようとする問題児の伊藤。過去一度も勝てていない強豪・菰野戦では暑さのあまりボーッとしたプレーを繰り返し、一死満塁で三塁走者だったときは暑さのあまりサードゴロでホームに向かわずに思わず帰塁してしまいます。
「え!?」と一瞬伊藤が視界に入ってしまった三塁手がボールを後逸。これが決勝点になるという奇跡。
この伊藤、ピッチャーとしても非凡な才能を持っていたのですが、なぜかいつもストレート一本やり。理由は「目が悪くてサインが見れないから」なんだとか。

そんな問題児伊藤の理解者で、辞めようとする彼をいつも引き留めていたのが補欠の堀。

伊藤は甲子園での思い出を問われると「堀が最終回に代打で出たこと」と語ります。この本では問題児たちの野球を通じた成長もしっかりと描かれ、不意に涙腺も攻撃してくるのです。

その他にも、大事な場面で必ず”お決まりの”エラーをするショートの栗山。好守に高い能力を備え、180cmの身長を持ちながら「声を出すのが苦手」な駒田など、とにかく選手達のキャラが濃い! そんな選手達それぞれに本の中で見せ場を用意している著者の菊地高弘氏にはユーモアセンスと愛情を感じます。

書き手が菊地氏でなければ、この本はもっと健全なノンフィクション然としたした硬派な一冊となっていたと思います。しかし、菊地氏だったからこそノンフィクションを超越した最高のエンターテイメントに仕上がっていると店主は思います。

「おもしろうそうな本だけど装丁がやけにポップだな……」

本屋でこの本を見つけた時の第一印象です。しかし、読み終えてみてわかりました。そこには「堅苦しく読まないでほしい。多くの人にもっと気軽に読んでほしい」という編集者と著者の想いがあったように感じます(考えすぎかも)。

高校野球ファンならずとも、野球好きならば絶対に読んでおくべき一冊だと、自信を持ってオススメします!

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