2019年5月に読んだ野球本の中から特に面白かった1冊を紹介します!
「一徹 –智辯和歌山 高嶋仁 甲子園最多勝監督の葛藤と決断 」
(著者:谷上史朗/出版社:インプレス/価格:1944円・Kindle:1847円)
店主の感想
ノンフィクション映画として、映像でも見てみたかった一冊です。
長崎県の離島で貧しい幼少期を過ごした高嶋監督(←あえて監督と呼びます)。両親は貧しいながらも生活をやりくりし、甲子園に憧れる息子を強豪私学の海星高校に送り出します。そんな境遇のため、猛烈なしごきや理不尽な上下関係で同級生たちがどんどん辞めていく中、高嶋監督は歯を食いしばります。この時に養われた「ナニクソ!」「クソッタレ!」の精神が、後の高校野球監督人生の支柱となります。
店主が抱いていた高嶋監督のイメージは「時に鉄拳を厭わず、365日厳しい練習を行っている監督」。簡単に言うと「高嶋監督=鬼」というイメージです。店主はこういった古いタイプの指導者が苦手です。というか嫌いです。早く淘汰されればいいと思っています。
しかし、本書の中で「連盟に5万先に払っておくから、年に5発は殴らせて欲しいわ(笑)」と嘯き、過去に体罰で謹慎処分を受けたことを度々ネタにしつつ、「こういう場面で一発かますと選手はグーンと伸びるんやけどなぁ。(成長できる機会を奪われて)選手もかわいそうや」と語る高嶋監督にはどこか憎めない一面があるようにも思えました。
また、年末年始には奥様と海外旅行に出かけ、Apple storeに寄ることなどが楽しみだったり、息子には小学生時代はサッカーをさせていたなど、前述のイメージとのギャップの大きさにも驚きました。
グラウンドを離れれば「鬼の高嶋」どころか、なんとも素敵なじいさんなのです。
昨年、紆余曲折を経てユニフォームを脱ぐことになった高嶋監督の監督引退パーティーにはプロに進んだ教え子たちを始め多くのOBたちが顔を揃えました。壇上での挨拶で高嶋監督は「今日は来ていないようだけど、あの時、練習をボイコットしたキャプテンにお礼が言いたい。あれがあったからこそ今の自分がある」と語ります。
「あの時」とは智弁学園の監督として「打倒天理!」に燃えていた高嶋監督の若き日の頃。
なぜ、選手たちは練習をボイコットしたのか? なぜ高嶋監督は当時のキャプテンにお礼が言いたいのか? キャプテンはなぜパーティーに出席しなかったのか?
どうしても当時のキャプテンに話を聞きたい。そう思った著者の谷上史朗氏は手がかりが少ない中、なんとか当時のキャプテン本人にたどり着きます。そして、上述の高嶋監督のパーティーでの発言を伝えると50歳をすぎた当時のキャプテンの目からは涙がこぼれ落ちるのでしたー
個人的には上記の件が本書のハイライトだったように思います。ちょっと涙腺がもぞもぞしてしまいました。
時に手をあげ、足もあげ。選手たちを絞り上げ、追い込み、そして掴んだ甲子園最多勝利記録。何よりも選手たちを精神的に追い込み鍛え上げることが成長に繋がり、その後の人生でも役に立つと信じて疑わなかった自分の高校野球監督人生。
しかし、時代が変わり自らの指導法が否定され、試合にも勝てないことが多くなった監督生活の晩年。「ナニクソ!」「クソッタレ!」精神だけでは乗り越えられない体の不調、人間関係。そこに漂うのは鬼の高嶋の悲哀ではなく、人間高嶋仁の哀愁のように思いました。
智弁和歌山はたまに地方予選の序盤であっさり負けることも多かったように記憶しています。本書ではその理由も記されているのですが、判官贔屓の店主は「智弁和歌山、敗退!」のニュースにいつも嬉々としていました。しかし、いまは高嶋監督のあとを継いだ中谷監督の戦いぶりを甲子園で見たいという思いでいっぱいです。
文庫本のような小さな文字がびっしり400ページ。読み応えありすぎのノンフィクション、「一徹」ぜひ読んでみてください。
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