【書評】「元ヤクルトスワローズチーフスカウト鳥原公二 プロ野球スカウトの裏話 トリ物帖」

「メガネを掛けた捕手は要らん」論争に終止符!?

夕刊フジ連載の「元ヤクルトチーフスカウト鳥原公二 トリ物帖」の書籍版です。プロ野球のスカウトを題材にした本といえば、後藤正治氏の「スカウト」、澤宮優氏の「スッポンの河さん 伝説のスカウト河西俊雄」のようなノンフィクションが真っ先に浮かびますが、この本の中身は良くも悪くも夕刊紙レベルです。でも、ヤクルトスワローズの元チーフスカウトがフリーの立場で当時の裏話、秘蔵話を披露しているのですから面白くないわけがありません。ずるい。

この本では、かつて野村克也氏が「古田はワシが獲れと言った」と言い、野村を嫌う往年のヤクルトの名スカウト片岡宏雄氏(元取締役編成部長)は「野村監督はメガネを掛けた社会人キャッチャーは要らんと言ったのを俺が説得した」と言う、いわゆる「古田を獲れと言ったのは誰なのか論争」に終止符が打たれています。

鳥原チーフは、ノムさんが「飯田とか、今いる選手に頭の体操をやらせれば何とでもなるから、捕手は取らなくていい」と言い始め、スカウト側との攻防があったことは認めています。しかし、「もう決めている選手(古田)がいる」と説得すると「メガネをかけているな…」と独り言は言ったものの、「メガネをかけている選手は要らない」とまでは言っていないと証言しています。
つまり、「ノムさんが古田を獲れと言った事実はない」。しかし片岡氏が主張する「メガネを掛けた社会人キャッチャーは要らん」とも言っていないことが鳥原氏の証言で明らかになりました。まぁ、片岡氏の判定勝ちというところでしょうか。

鳥原さんが思い起こすヤクルトのスカウト活動の裏側。もちろんすべてはここで紹介はできませんが、「歴史のif」に想いを馳せてみたくなるエピソードが満載でした。

・岡林は当初、ロッテが一本釣り予定だった。
・ヤクルト入団が決定的だった高橋由伸。
・ノムさんの急なリクエストで五島(山梨学院大付→オリックス)から稲葉に指名変更。
・獲っておけばよかったと後悔した赤星とGG佐藤。
・「偽情報」を掴まされて田中将大を指名見送りした痛恨。
・履正社・山田哲人か修徳・三ツ俣大樹で迷った外れ外れ1位。
・斎藤佑樹の両親に突きつけられた「飲めない2つの条件」
・山本由伸指名を見送った理由

ちなみに、ノムさんが「この選手を指名してくれ」とリクエストを出したのは稲葉の時だけだったそうで、細かく選手のリクエストを出さない方だったそうです。意外ですね。若松監督も「スカウトの皆さんにお任せします」、高田監督も「内野の候補はいますか?」と聞く程度。「足の速い左打ちのショートが欲しい」など、具体的に獲得選手の指示をしてきたのは古田だけだったとのこと。何となくですが、鳥原さんは古田が嫌いなんだろうなということが本書の至るところから伝わってきました。

「履正社・山田哲人か修徳・三ツ俣大樹で迷った」という話も非常に興味深いものがあります。かたや史上初の3度のトリプルスリーを達成し今シーズンオフの動向に注目が集まるスーパースター。かたやオリックスに2位で入団後は守備職人と化しながらも、移籍先の中日では与田監督から「代打三ツ俣」として起用され続ける(中日ファンは憤慨している)選手。こんな天と地ほどの差が開いている選手も、ドラフト時の評価はほぼ同格だったという運命の悪戯。ヤクルトにはぜひ山田ではなく三ツ俣を指名していただきたかったです。

中日ファンの店主でも楽しめた「プロ野球スカウトの裏話」。これから賑やかになるドラフト戦線、そのお供にぜひ読んでいただきたい一冊です。

「元ヤクルトスワローズチーフスカウト鳥原公二 プロ野球スカウトの裏話 トリ物帖」

鳥原公二
舵社
1540円

関連記事

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

2024年3月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031
ページ上部へ戻る