■野球書店推薦本(7)
「野球の国から 〜追憶の高校野球〜」
著者:日刊スポーツ新聞社/出版社:ベースボール・マガジン社/価格:1944円
店主の感想
日刊スポーツの人気連載の書籍化。収録されているのは以下の顔ぶれ。
いささか人選が渋いですね。プロ野球ファン歴30年以上の店主も半分以上の方々の現役時代を知りません。
長嶋茂雄/板東英二/愛甲猛/佐々木信也/畠山準/荒木大輔/香川伸行/太田幸司/掛布雅之/斎藤佑樹/谷繁元信/西本聖/中西太/星野仙一/広瀬叔功/西田真二/黒田博樹/王貞治(掲載順)
面白そうな人から読んでいこうと思い、最初に選んだのは愛甲猛。
するといきなりタイトルに派手な誤植を発見!
(愛甲の甲子園初出場は昭和43年ではなく53年ですよ。43年だと愛甲さん、今年66歳ですw.)
いろんなトークショーや雑誌などで高校時代の武勇伝を語っている愛甲さん(主に女性と下半身とお薬のお話)ですが、今回は日刊スポーツの連載とあって、そういったこともマイルドに表現されていました。暴露話的な話をちょっと期待していただけにやや拍子抜け。
しかし、暴露話はなくても、そこには野球の才能に恵まれた不良少年と辛抱強く彼と向き合った監督との「師弟愛」の物語がありましたー
野球部を飛び出し、不良仲間と共に補導されれば、母子家庭で仕事が忙しい母親に変わって警察へ引き取りに行ったのは渡辺監督でした。
愛甲 「独りでポツンと残されていたら、警察官に『迎えがきたぞ』って言われてね。パッと顔上げたら監督がいた。バツが悪かったよ。」
渡辺 「悲しそうな、わびしそうな顔をしていてね。その顔を見て、私は『この子を育てていきたい』って思った。私も似たような境遇の時がありましたから」
渡辺監督もまた、大学時代に怪我で野球をやめ、自暴自棄になり道を踏み外しそうになったことがあったそうです。愛甲さんと自分の姿が重なったんですね。教育者ですね。スクルーウォーズの山下真司のようです。
暴走族の集会にも出た。旧知の先輩たちに歓迎してもらえると思ったが、逆に怒られた。「ここはお前が来るところじゃない」と追い返された。
愛甲 「バリバリの不良なんだけどね、みんな野球が好きで甲子園に憧れていた。
『お前は俺たちの夢なんだぞ』って言ってくれた。ハッとしたね。」
愛甲さんはその後、何度も自宅を訪れた渡辺監督や引退した先輩たちの説得を受け、野球部に復帰します。そんな愛甲さんを渡辺監督は暖かく迎え入れ、復帰後は寮ではなく渡辺監督の自宅に住まわせたそうです。
新チームでキャプテンになった愛甲さん。しかし、そのワンマンっぷりから次第にチームの中でも浮いていきます。そんな愛甲さんにとって転機となる出来事がありました。味方のエラーでサヨナラ負けを喫したある試合で、悔しさのあまりグラブを叩きつけてしまいます。高校野球はおろか、プロ野球でもタブーな行為ですね(下柳を除く)。
これが、渡辺監督の逆鱗に触れました。この時、渡辺監督に叱られた言葉遣いが愛甲さんの胸に響いたのでした。
愛甲 「監督には『お前は、そういう態度をしてはいけない』と言われた。この『お前は…』のところが『お前だけは…』という感じでね。他の選手に言うわけじゃない。オレにだから言うんだって思った。」
投打の要で主将でもある。愛甲がどんな表情、どんな態度をするかでチームのムードは大きく変わる。それを自覚しろ。愛甲は、そういうメッセージだと理解した。
そこから愛甲さんは変わりました。それが横浜高校にとって「愛甲のワンマンチーム」からの脱却となり、横浜高校はその夏、甲子園で頂点へ駆け上がったのでした。
愛甲 「思えば監督はよくあんな連中の面倒を見てくれたな。多分、ボクが渡辺さんに一番苦労をかけた選手だろうね。いろんな意味で。甲子園で優勝して、少しは恩返しできたのかな」
この言葉を伝えると、当時監督の渡辺元智(72)はハンカチで目頭を押さえた。冗談めかすように「昔を思い出したら涙が出てきたよ」と笑った。
渡辺 「以前、人づてに愛甲が『渡辺監督と野球ができて幸せだった』と言っていたと聞いた。うれしかったね。一番心配していたから。松坂の心配とは比較にならない。」
渡辺監督にとっては手を焼いた生徒の方が可愛く思えるものなのでしょう。
40年近く経った今でも当時を思い出して涙を流す渡辺監督は、監督である以前に教育者だったと言えるのかもしれませんね。
大映ドラマを見ているような素晴らしい「師弟愛」のお話でした。
「野球の国から 〜追憶の高校野球〜」おすすめです!
参考動画
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2020年 8月 07日トラックバック:「読む甲子園」の本で打線を組んでみた! | 野球書店
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