店主推薦本「清原和博 告白」

■店主のオススメ(2)

「清原和博 告白」

・著者:清原和博
・出版社:文藝春秋
・価格:1728円

店主の感想

今でも8月18日がやってくると「清原の誕生日だな」と思い出してしまう。

初めて清原和博という存在を知ったのは小学1年の夏だった。まだ野球が何なのかもよくわかってなかった田舎の少年の目に、PL学園1年の「KKコンビ」の活躍はまぶしく映った。

プロ野球選手の名前は一人も知らないのに生年月日まで覚えてしまうほど、それほど鮮烈な印象を受けたことを今でも覚えている。

ドラフトの喧騒を経て西武に入団した清原は1年目から31本の本塁打を打つ活躍をみせた。清原以来、この30数年の間に高卒新人選手が二桁本塁打を打ったのは松井秀喜ただ一人だけだ。その松井にしてみても11本塁であったことからも、いかに清原の成績がズバ抜けていたかが分かるだろう。

当時の私は清原が将来、王貞治氏の持つ通算本塁打記録を抜き去ることに疑いを持たなかった。世界記録が塗り変えられるその時、自分は何歳で、どこで何をしているだろうか? そんな遠い未来に思いを馳せていた。

しかし、そんな未来がやってくることはなかった。


「死にたくなるんですよ」
「気づけば、覚醒剤の打ち方っていうのを検索していることもあるんです」

こう語っているのが現在の清原だ。

清原の人生の歯車は、一体どこで狂ったのか?
その答えを探すべく、清原自身が1年間、23回に渡ってNumber編集部に「告白」する形で自らの人生を振り返ったのが本書である。
ちなみに週刊誌などで報じられたような、いわゆる暴露本のような趣味の悪い本ではない。

そもそも、清原はなぜ覚醒剤に手を染めてしまったのか? そこがまずよく理解できていなかったのだが、本書を読む限り、理由はこういうことらしい。

引退して目標を見失った → 心にポッカリ穴があいた → 生活が荒れて行った → 酒に逃げるようになった → 酒の場でいろんな人に会うようになった → その中に闇の世界の人がいた → 軽い気持ちでやってみた。

(ちなみに入れ墨を入れた理由は「新しいスタートをきるため」だったという。)

これは本人が本書で述べていることだが、プロ入り2年目以降はルーキーイヤーほど努力をしなくなったという。私にはそれが清原のすべてを表しているように思える。覚醒剤に手を出してしまった経緯でもわかる通り、清原は自分に対して甘いのだ。それでもそこそこ通用してしまったプロ野球の世界が余計に甘さを増幅させていったのだろうが。

現役生活の晩年、過酷な膝のリハビリに臨む父の姿を見た6歳の息子は、七夕の短冊に「お父さんの膝が良くなりますように」と書いたという。

そんな心優しい子ども、愛すべき家族に囲まれた自分は恵まれていると考えることができず、それどころか、
「ホームランよりも自分を満たしてくれるものはない」、
「僕は誰にも応援されない」、
「ホームラン打者でもない自分が嫌で嫌で仕方なくて、お酒に逃げていきました」

と転落していった様を語る清原は、やはり甘えているという他ない。それはまるで「僕だけを見て!」と自分が主役、中心でいなければ気が済まない大きな駄々っ子のようにも思える。

余談だが、巨人へFA移籍した1996年オフ、詳細は割愛するが清原の心は実は「90%阪神に傾いていた」という。阪神にはその2年後のオフに野村克也氏が監督に就任している。清原は新人時代から野村氏の現役時代のヘルメットを使用し続けていたことからも分かるように、偉大な先輩として野村氏に敬意を抱いていたことは有名だ。野村氏といえば「野村再生工場」と言われるように選手の本来持っている力を引き出す能力に長けた名将であり、楽天時代には山﨑武司を再生したように、扱い辛いベテラン選手の操縦もお手のものである。

結果論ではあるが、あの時阪神に移籍し、その後野村氏の薫陶を受けていれば、その後の清原の野球人生も、いや人生そのものも大きく変わっていたのかもしれない。

読んでいて救われた思いがしたのは、現役時代は覚醒剤をやっていなかったこと。そして、今は支えてくれている女性がいることだ。
反対に最も心が痛んだのは、前述の息子が中学に入り野球を辞めてしまったことだ。そこにどのような思い、葛藤があったかは想像に難しくないが、清原自身は、
「野球を選んでくれなかったのは残念ですけど、僕が無理やり押し付けてやらせることではないので」と語っている。

「自分のせいだとすれば申し訳ない」くらいの言葉が出てくると思っていただけに、ここでもやはり清原にはがっかりさせられた。覚醒剤中毒と併発した鬱病に苦しんでいる現在の清原にそこまで求めてしまうのは酷というものだろうか。

この本を開く前までは、読後に「清原、帰ってこい!応援しているぞ!」という気持ちになっていることを期待していた。しかし、頁を進めるに連れてそんな軽い言葉は出てこなくなった。

覚醒剤というものは、甲子園であんなにも輝いていた少年をこんなにも変えてしまうのかという怖さを感じた。そして今なお暗闇でもがき苦しむ清原に対して、素直に「頑張れ」と思えない自分がそこにいた。

あなたはどう感じるだろうか?
ぜひ「告白」を読んでみていただきたい。

 

 

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