【書評】「嫌われた監督」(鈴木忠平/文藝春秋)

嫌われた監督の表紙

今ようやく分かる、謎かけの答え

面白い野球本がたくさんあった9月でしたが、やはりこの本の面白さが圧倒的でした。

開幕投手・川崎憲次郎に始まり、チームの顔である立浪和義のレギュラー剥奪、山井の完全試合目前の交代、アライバのポジションシャッフルなど、その選手起用はチーム内外の波紋をよびました。

考えの裏にある真意を説明しない落合。
ファンにとっても、もしかしたら選手達にとっても「なぜこんなことをするのか?」という多くの疑問のあった8年間だったと思います。

監督を退任して早10年。
今ようやく分かる、謎かけの答え。

「木」だけを見ていても理解できなかっ選手起用、采配も、こうして一冊の本になり「森」として見ることで、「なるほど落合のやってきたことには一本筋が通っていたんだな」と理解することができました。

2006年のリーグ優勝で涙を堪えきれなかったように、本当は「情」の人なのだと思います。しかし情があったが故に2004年の日本シリーズで敗れてしまった。勝つためにはその情を排除しなければならない。それを最後まで完遂した落合にプロフェッショナルの姿を見た思いがしました。

情を排除するということはドライになること。冷徹になることとイコールです。
やがて監督と選手との距離は離れていき、そのドライな采配は賛否を呼び、勝っても、日本一になっても批判の声はついて回りました。

落合はそんな周囲の声など気にするはずがない。

そう思っていましたが、退任前年の2010年にタクシーの中で著者だけに見せた「憔悴」は、落合とて悩み、苦しみ、それがプレッシャーとなってのしかかっていることが伝わりました。小学校時代から中日を応援して40年近くになりますが、初めて見た落合の弱さでした。

2011年、チームが優勝争いを演じている中、不可解なタイミングでの退任発表。これを主導したとされる球団社長は「チームの優勝を望んでいない」とチーム内で噂され、そのことが監督と選手たちとの距離を再び縮める結果となり、チーム一丸で逆転リーグ優勝を成し遂げます。ヤクルトとの天王山で見せた荒木の「禁断のヘッドスライディング」を見た落合は、この場面を振り返りこう話しています。

「俺はもう、あいつらに何か言う必要はないんだって、そう思ったんだ」

それがビールかけ会場で発した「お前らのこと、認めてやるよ」という言葉につながり、これが8年間の落合野球の終結宣言だったのだと思いました。

著者の鈴木忠平さんにはぜひ『嫌われたGM』も書いて欲しいところです。

鈴木忠平
文藝春秋
2090円(Kindle 1900円)

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