【書評】「甲子園は通過点です」(氏原英明/新潮新書)

甲子園は通過点です

3年間で変わった高校野球の潮目

つい先月発売されたばかりの『僕たちの高校野球』(ベースボールマガジン社)という本があります。その中の吉田輝星の章。夏の甲子園決勝戦、その降板シーンの一文に目を疑いました。
「吉田は5回を投げて12失点を喫し、この夏初めてマウンドを降りた。秋田大会から延べ『1517球』」

1517球……。
猛暑の中でたった1人のピッチャーが投げるには信じられない数。当時も報道などでその数字は知っていました。「投げさせすぎだろ!」という感覚は当然持っていたつもりでしたが、久々にこの数字を見ると当時以上の驚きというか、「たった1人のピッチャーに何をさせているんだ!」という強い憤りさえ感じてしまいます。

こういった「ここで野球人生が終わってもいい」という玉砕球児を生み出す背景や勝利至上主義に傾倒する指導者を批判し、甲子園のあり方に一石を投じたのが当時発売された『甲子園という病』(新潮新書/氏原英明)でした。

あれから3年——。
高野連は重すぎる腰を上げ「1週間で500球以内」という球数制限がようやく設けられました。球数制限が導入されれば「待ち玉作戦やカット打法を練習させる」とうそぶく関係者もいましたが、甲子園でそんなことは起こっていません。むしろ指導者の多くが積極的に複数投手の育成に取り組んでいます。1人の投手を酷使するような起用をすれば強く非難される雰囲気さえあるように思えます。この3年間で高校野球の潮目が変わったのです。

そんなこの3年の間に高校野球に起きた変革や変革を起こしている人物を取り上げた一冊が、氏原英明さんの新著『甲子園は通過点です』(新潮新書)です。

「投手1人のチームを作って、そこが壊れたら終わりって、組織のあり方を考えたら普通におかしい。(中略)企業もそうですよね。1人に託して大きなプロジェクトが潰れてしまう。そういうことはあってはいけないじゃないですか」と第3章で述べているのは智弁和歌山・中谷仁監督。
この夏、複数投手を起用して甲子園を制しただけに、この考え方、この言葉には大きな重みがあります。高校野球の変革をさらに後押ししてくれることでしょう。

また本書のタイトルにもなっている「甲子園は通過点です」という言葉はプロ注目の天理・達投手の言葉なのですが、甲子園のその先の目標を見据え「通過点」と言い切る球児が現れたことで「ここで野球人生が終わってもいい」というこれまでの玉砕球児とのコントラストが鮮明になったように思えます。
新しいタイプの選手が登場したことにワクワクしてしまいます。これから高校球児も変わっていくことでしょう。

これからの高校野球、甲子園がどうあるべきかを考えるきっかけになる一冊であり、テレビや新聞だけでは分からない高校野球の現在地を確認できる一冊だと思います。

氏原英明
新潮新書
792円(Kindle 792円)

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