野球書店推薦本「補欠の力 広陵OBはなぜ卒業後に成長するのか?」

「補欠の力」

■店主推薦本(6)

「補欠の力 広陵OBはなぜ卒業後に成長するのか?」

・著者:元永知宏
・出版社:ぴあ
・価格:1500円

店主の感想

広陵高校と中井哲之監督を語る時、2007年の佐賀北との甲子園決勝戦を語らないわけにはいきません。広陵が1点を追う最終回、無死1塁からの送りバント。1塁走者は果敢に3塁を狙ったものの惜しくもアウトで万事休す。この時点で佐賀北の初優勝がほぼ決まりました。

「あー、やっちまった。この子、監督に怒られるだろうな.、一生引きずるかもな……」
そんな風にテレビを見ながら思っていましたが、中井監督は怒るどころかベンチに引き揚げてくるこの走者を拍手で出迎えていました。

当時、この光景を店主はこんな風に解釈していました。
「このアウトをこの子は一生引きずるかもしれない。この子に敗戦の十字架を背負わせてはいけない。この子を怒るのは止めよう。むしろ積極性を褒めて迎えてあげよう」
中井監督はこのように思ったのではないかと。
(この時の心境を中井監督が本書の中で述べられています。正解はそちらで!)

試合後、中井監督は逆転を許したイニングの主審の不可解な判定(佐賀北を応援する球場の雰囲気に流され、明らかなストライクを意図的にボールとしていたようにも見えた判定)について、
「誰が見てもおかしい。子供達は命をかけてやっているのに、審判の権限が強すぎる。高野連はもっと考えて欲しいですね。これで監督をやめろと言われたら、やめてもいい」
と堂々と審判批判を繰り広げていました。高校野球において審判批判はタブー。この発言は物議を醸し、中井監督は後に高野連から厳重注意を受けたそうです。

しかし、店主には中井監督のこれらの行為が「選手たちを守る素晴らしい監督」という風に映りました。その思いは2014年に発売された『ともに泣きともに笑う 広陵高校野球部の真髄』(中井哲之/ベースボール・マガジン社)を読んで確信に変わりました。さら、昨年のドラフト前後に出版されたスポーツ誌『Number』に掲載された中井監督と中村奨成(現広島)の出会い、入学に至るエピソードが綴られたコラム(詳しくは下記の動画をご覧ください)を読むにつけ、中井監督の大ファンになってしまいました。

前置きがこんなに長くなってしまい、自分でもびっくりです……
そして先日、『補欠の力 広陵OBはなぜ卒業後に成長するのか?』(元永知宏/ぴあ)が発売されました。読んでる途中、目頭が何度か熱くなりました。自分も中井監督の下で野球をやってみたかったと何度も思わされました(冷静に考えれば同学年に二岡智宏(元巨人、日本ハム)、福原忍(元阪神)がいたわけで、試合に出られるわけもないのですが……)。

話がやや逸れました。
本書の中に登場する「これぞ中井哲之!」と中井イズムが炸裂している言葉をいくつか紹介します。これだけでも中井監督がどのような考えを持っている監督であるかが伝わると思います。

「僕は『生徒と一生付き合える監督になろう』と思いました。どんな関係であっても、長く関係が持てるようにと」

「僕は生徒のことを、武器だとも商品だとも思っていません。(中略)『この武器とこの武器があったら勝てる』というような考え方はしません。それは教育者がすることじゃない」

「これと決めた選手を入れるために何回も会いに行く監督がいると聞くことがあります。『その金はどこからでとるんじゃろ』と思う」

「いくらでも道具を買える家もあれば、なかなか買えない家もある。いつやめるかもわからんのに、入学と同時に試合用のユニフォームや帽子、揃いの帽子、揃いのTシャツを買わせる学校もあると聞きますが、僕はおかしいと思うんです」

「野球にむやみにお金をかけるのが僕は大嫌いなんですよ。(中略)お金持ちではなくて、苦労して私学の広陵に入れてくれる親に基準を合わせたいんです。揃いのバッグなんかいらんでしょ」

「生徒にはよくこう言います。『俺が一度でもお前に来てくれ言うたことがあるか。お前が来たいと思って勝手に来たんじゃろ。やるなら本気でやれ』と」

「甲子園だけが野球じゃない、甲子園の2週間の期間よりも大切なことがたくさんある」

「甲子園は通過点にすぎん、思い出にしかならん」

「『ポジションは補欠です。3年間野球をやりました』と胸を張れるのがかっこいいと僕は思います」

こんな中井監督はベンチ入りメンバーよりも、毎年100人以上もいる控えメンバーを大切にしているといいます。

おそらく中井哲之ほど「補欠」を大事にする監督はいないだろう。「本気でやり通した控えの選手は本当に尊い」とも言う。根底に「一番しんどいのは、控えの三年生が本気で3年間をやり通すこと」という思いがあるからだ。

(本書より)

中村奨成が何本ホームランを打っても涙は出てこなかったそうですが、甲子園準優勝の後に控え選手の顔を見たら涙が止まらなかったと言います。そして、控えの選手たちに「高校でレギュラーかどうかなんか関係ないんじゃ。お前らは人生に勝て!」という言葉を送ったそうです。

ちなみに広陵高校では控えの選手が裏方に回るときは監督の許可を必要としているそうです。みんな、広陵の試合用ユニフォームを着ることを夢見てつらい日々に耐えてきたのに、自身の力に見切りをつけ残された高校野球生活をチームのために捧げる決意をするのです。そんな選手たちのつらい思いが分かっているからこそ、中井監督は控え選手を大切にされているのでしょう。

控え選手について、もう一つエピソードがあります。昨年、甲子園準優勝を果たした後、ベンチ入りメンバーたちは控え選手と満面の笑みで肩を組んで写真を撮ったそうです。これは広陵高校の伝統なのだそうですが、その伝統の始まりというのが、他ならぬ中井監督なのです。中井監督が現役時代、同部屋の3年生で控えだった選手に「一緒に写真を撮ろう。おまえ、これかけや」といって優勝メダルをかけて一緒に写真を撮ったことが伝統の始まりなんだそうです。
中井監督は選手だった頃から、控え選手を大切にしていたことが伺えるエピソードですよね。

広陵高校野球部は卒業生の多くがグランドに顔を出し、折に触れて中井監督に電話で近況報告もしているそうです。卒業後もこのような関係を築けることができるのは、中井監督が野球強豪校の監督である以前に教師であろうとしているからなのだと思います。だからこそ、ベンチに入れなかった選手たちに心を寄せることができるのでしょう。そこに古き良き師弟関係という昭和の匂いを感じるのは店主だけでしょうか? 人間関係が希薄になりがちな現代において、その関係性は羨ましくさえあります。

『補欠の力 広陵OBはなぜ卒業後に成長するのか?』を読んで、店主が中井監督のことがますます好きになったことは言うまでもありませんね。今の高校野球のあり方に疑問があるという方にもお勧めします!

 

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