甲子園の名参謀

強い高校に優秀な参謀あり

店主が高校野球を見始めた頃はPL学園のKKコンビの全盛期。その時代、全国最大の激戦区・神奈川県の盟主は東海大相模でも横浜でもなくY校(横浜商業)でした。しかし、あんなに強く、甲子園の常連校だったY校が最後に甲子園に出たのはいつだったでしょうか?
大人になってから、当時のY校には元横浜部長の小倉清一郎さんがいたことを知り、なるほどと思ったものでした。
店主高三の夏には佐賀県の佐賀商業が優勝しました。店主は大分商業の野球部崩れですが、当時は同じ九州の田舎の商業同士、佐賀商の全国制覇は偶然、奇跡だと思っていました。
しかし、これも後年ずいぶん経ってから、当時の佐賀商には後に駒大苫小牧を夏の甲子園2.5連覇に導く香田誉士史氏がコーチにいたことを知りました。
06年のセンバツで清峰(長崎)が全国制覇をしたときには、この春に離島の大崎(長崎)を甲子園に導いたことでも話題になった清水央彦監督がコーチを務めていました。

強い高校、黄金期を築く高校には優秀な参謀がいるー
そんなことが言えるのかもしれません。

そんな参謀達にスポットを当てた一冊が「甲子園の参謀達」(竹書房/大利実ほか)です。
登場するのは冒頭の小倉氏をはじめ、日大三校・三木部長、作新学院・岩嶋部長、海星(三重)でアドバイザーを務める葛原氏、聖光学院・横山部長、花咲徳栄・村上部長といった顔ぶれ。

特筆すべきは日大三校の小倉全由監督と三木部長の関係です。
裏表なく、サービス精神旺盛で取材関係者や高校野球ファンに愛される人気者・小倉監督。日大三校の章だけ、「小倉監督から見た三木部長」という見出しが①〜③まであることを見ても、あふれ出るサービス精神で取材ライターにたっぷり語ったであろうことが推察できます。このあたりが愛される所以ですね。

一方で三木部長は、そんなサービス精神がありすぎる小倉監督や選手達を取材陣から守るのも仕事の一つ。店主も経験がありますが、日大三の取材申請はなかなか通らないのは結構有名だったりします。
そして練習では選手達を厳しく追い込み、「監督がなんというか聞いてこい!」と選手を怒れば、小倉監督は「三木がなんで怒っているか分かるか?」とフォロー。必然、三木部長は恐れられ、小倉監督は愛される。チームのため、監督のため、三木部長は嫌われ役を一手に引き受けるのです。なぜなら小倉監督が大好きだから。そこに「小倉愛」があるから。

そんな日大三校野球部の雰囲気、空気感が伝わるエピソードを本書から一つだけ紹介させてもらいます。

三木部長は99年からずっと選手達と寮で暮らしOB達からも「三木さんいつ結婚するだ?」と心配されていたそうです。それが2019年に突如結婚。なんと、寮で暮らしつつ14年間も愛を温め続けていたのでした。奥さん理解ありすぎw

「秋の帝京戦の前に、監督が『三木が結婚することになったから。お前ら、三木のためにも、この秋は絶対に勝つぞ!』と言ったら、帝京戦で負けてしまって、言わなかった方がよかったんじゃないかな」と、バツが悪そうに笑った。

このエピソードには思わず微笑んでしまいます。小倉監督と三木部長の絶妙な関係が素敵です。

今年のセンバツを制する高校にはどんな名参謀がいるのでしょうか。
高校野球の面白い見方、楽しみ方を教えてくれる一冊です。

大利実 (他)
竹書房
1980円(Kindle版:1980円)

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