イチロー伝説の決勝打の陰に、名スコアラーがいた!
技術や分析系の野球本があまり得意ではないので、恐るおそるページをめくっていったのですが、序章がとても面白くて一気に引き込まれ、あっという間に読み終えてしまいました。本にとって序章がいかに大事であるかを思い知った気がしました。
その序章で語られているのは、野球好きならば誰もが見たであろう、第二回WBC決勝の韓国戦です。この大会にスコアラー人生の集大成として臨んでいた著者の三井康浩さんは、この試合では特に選手達に狙い球の指示などはしなかったそうです。というのも今大会で韓国と相まみえるのは実に5度目。ここまで来てスコアラーがどうこう言うよりも、対戦を重ねてきた選手達自身の判断に任せた方が良いと考えたからなのだそうです。
そして、あの伝説のイチローの決勝打が生まれる前にこんなエピソードがあったそうです。
今大会不調で苦しんみながらもスコアラーに特に何も聞いてこなかったイチローでしたが、この土壇場に来て
「この場面、僕は何を狙えばいいですか?」
と三井さんに聞いてきたそうです。
「え!ここで聞いてくるのかよ…」
と三井さんも一瞬困惑したそうですが、
「(林昌勇の得意球の)シンカーを狙っていこう」
と伝えたそうです。
何か根拠があったわけではなく、この場面でイチローのような一流の打者を迎えれば必ず得意球を投げてくるはずだという、長年スコアラーとして培った確信があったそうです。
そして、イチローがSAMURAI JAPANを二連覇に導くセンター前ヒットを放ちます。
イチローが打ったボールは、三井さんが伝えたとおり、シンカーでした。
こんなしびれた序章を読んだことはありません。「野球本『序章』オブザイヤー」があれば差し上げたいくらいです。
こんな序章を読んでページをめくる手を止められる野球好きがいるでしょうか?
結果、苦手だと思っていたジャンルの本なのにあっという間に読み終えてしまいました。
本書では、三井さんが巨人時代に最も手を焼いたチームとして90年代後編以降の中日投手陣が何度も登場します。
さすが、宮田征典、山田久志、森繁和という名伯楽たちがコーチを務めてきただけのことはありますね。
中でも、三井さんは山本昌、川上憲伸、そして谷繁元信の名前を挙げています。
松井秀喜に対して意図的に3ボール0ストライクの状況を作り、そこから勝負して打ち取るという抜群のコントロールとキレを誇った山本昌、同じく抜群のコントロールと鋭いカットボールを駆使した川上には手を焼いたそうです。特に川上は途中からシュートを投げはじめ、巨人のスコアラー陣は「パニックに陥った」のだそうです。全盛期の川上はそれほどまでに攻略が難しかったんですね。
そして、そんな強力な投手陣に2002年からは谷繁が加わり、中日投手陣の攻略が更に厳しくなったそうです。
宿敵巨人軍にこんなに警戒されていたとは、中日ファンとしてとても誇らしい気持ちです。
「そういえば、昔は強かってんだよなぁ。。。」
中日ファンの店主は今は遠い目をするしかありませんが…
もちろん、中日のことだけが書かれているわけではありません。
スコアラーとしてどのように対戦打者、対戦投手を分析し、それをどういった形でチームに、選手に落とし込んでいるのかなど、プロ野球チームが勝利を目指すための努力と試合の裏側を知ることができる一冊になっています。
これを読むとプロ野球観戦がいっそう面白くなると思います。
在宅勤務のお供にぜひ、読んでみてください。
三井康浩
990円
KADOKAWA
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