【感想】「勝ちたければ歴史に学べ」

野村克也が語る、昭和のプロ野球トリビア

たくさんの書籍を遺して天国に旅立ったノムさん。最早どれが遺作なのか分からないほど死後もハイペースで書籍が発売され続けています。

そんな中発売されたこの本『勝ちたければ歴史に学べ』(内容から察するに2017年くらいに書かれたものだと思いますが)の半分は、
「なんで俺の背番号が永久欠番にならずに黒田の背番号が永久欠番なんだ」
「トリプルスリーがこんなに簡単に達成されるのはプロ野球のレベルが下がっているからだ」
「古田は俺が獲れといった」
といったお馴染みの愚痴とぼやきなのですが、残りの半分は戦前戦後を中心とした『ノムさんの語るプロ野球昔ばなし』とでも言うべき内容になっています。

戦前戦後のプロ野球ー
今のプロ野球ファンにはあまり興味が沸きにくい話しかもしれません。
店主も80を過ぎたおじいちゃんに戦前戦後のプロ野球を延々語られても困ってしまいます。

しかし、語られる話がこんな内容だったらどうでしょう?

「野村克也が語る、伝説の名投手・沢村栄治が三度も戦地に駆り出された理由」
「野村克也は知っている、南海が長嶋茂雄を獲り逃がしたセコすぎる理由」

ちょっと聞きたくなってしまいますよね?

この本を通じてノムさんは「記録には残ることのないプロ野球のドラマとトリビア」を後世に語り継いでいるのです。そこにノムさんの野球人としての使命感のようなものを感じます。
正直、乱発気味の野村克也名義の本に食傷気味だったのですが、この本にはノムさんの新境地が垣間見れた思いがしました(死んだ人間に新境地もないと思いますが…)。

ノムさんが語り継ぐ「記録には残ることのないプロ野球のドラマとトリビア」をいくつか紹介します。

・長嶋茂雄、幻のトリプルスリー
長嶋茂雄がホームランを放ちながらもベースを踏み忘れて取り消しになった話は知っていました。しかし、その踏み忘れがなければ長嶋は史上初にして唯一の「トリプルスリーを達成した新人」になっていたのです。しかも長嶋はその後の現役生活で一度もトリプルスルーを達成できませんでした。

・史上初の完全試合は徹マン明けの代役ピッチャー
プロ野球史上初の完全試合を達成したのは藤本英雄投手(巨人)。その快挙は先発予定だった投手の体調不良による急遽の代役登板だったそうです。しかも藤本投手はその日の朝まで徹夜で麻雀をしていたそうです。ノムさん曰く「逆に肩の力が抜けてよかったのかも」とのこと。

・雨とブルペン捕手に阻まれた完全試合
別所毅彦投手は(巨人)は9回二死まで一人の走者も出さないパーフェクトピッチング。完全試合まであと一人の場面で代打で起用されたのはプロ2年目のブルペン捕手神崎安隆選手(松竹)。果たして神崎が放ったボテボテの内野ゴロは雨でぬかるんだグラウンドの影響もあり内野安打に。快挙達成を阻止する殊勲の一打になりましたが、神崎選手にとってこの一打がプロ生活で唯一のヒットになりました。

・石ころに阻まれた完全試合
村田元一(阪神)投手も九回二死までパーフェクトピッチング。最後のバッターもファーストゴロに打ち取り快挙達成かと思われましたが、なんと小石に当たってイレギュラーバウンド。快挙を逃しました。

こういったドラマとトリビアをノムさんが沢山語ってくれているわけですが、最も印象深かったのは史上初めて行われた天覧試合についてのドラマです。

そもそも天覧試合が開催されたのは、皇居から見える後楽園球場のナイターの明かりを昭和天皇が「あれは何の明かりだ?」と興味を持ったことがきっかけだったそうです(諸説あり)。
この試合、巨人が2点ビハインドで迎えた7回裏に高卒新人選手が同点ツーランホームランを打っています。その選手が後の世界のホームラン王、王貞治でした。とはいえ一本足打法を体得してブレークするのはこの3年後で、この年の成績は打率.161、ホームラン7本でした。

この試合で後に語り継がれる劇的サヨナラホームランを放った長嶋でしたが、その試合まで絶不調で二十日間全然打てていなかったそうです(その間ノーヒットなのかは不明)。「舞台が大きければ大きいほど、長嶋は燃えた。だからこそ、ファンは長嶋に熱狂した」とノムさんもライバル長嶋を評しています。
ちなみに天皇皇后両陛下がお帰りになる予定時刻は21:15。長嶋が試合に決着をつけたのは21:12だったそうです。
長嶋がサヨナラホームランを打ったことにより、この試合がONアベックホームランの第1号になりました。

ここまで書いていて思いました。
この本のタイトルは『野村克也が語る、昭和のプロ野球トリビア』にした方が良かったのではないかと。

何にせよ、プロ野球の生き字引が残した話は圧倒的です。面白いです。
ぜひ読んでみてください。

(野村克也/小学館/792円)

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