「松坂世代」の大外からまくってくる男

Kindleで読みましたが8253ページもありました(笑)。とにかく長いです。一冊読み終わったときの達成感は学生時代に読んだ(読まされた)ドストエフスキーの「罪と罰」以来のような気がします。

店主は映画好きが高じて脚本の学校に通っていたことがあります。そこで学んだのは「主人公が無理難題を押し付けられ、絶体絶命のピンチに陥り、仲間に裏切られる。そうやって主人公が困って、悩んで、葛藤して成長することがドラマを面白くする」ということでした。半沢直樹もディズニー映画も全部その通りですよね。
一人の人物を追ったノンフィクションも同じだと思います。甲子園に出て、プロに入って、レギュラーになって、億単位の年俸をもらって、綺麗な奥さんと可愛い子供に恵まれるー。
そんな人物のノンフィクション、面白くないですよね(笑)

前置きが長くなりましたが、松坂大輔を含めて16名の「松坂世代」が登場しますが、一番面白かったのは伊代野貴照(元阪神)の章でした。
ローソンから阪神に下位指名され1年目から順調なプロ野球人生をスタート。しかし、同年秋に星野仙一のあとを継いだ岡田彰布新監督の「サイドスローはいらん」という理不尽な理由で、その後は2軍で結果を出し続けるも1軍に呼ばれない日々が始まります。球団にトレードを直訴しても黙殺され、戦力外通告後。トライアウトでも声が掛からず、すでに結婚していたものの野球を続けるためにあてもなく渡米。そこで悪徳代理人に騙されそうになりながらも知人の伝で伊良部秀輝に弟子入り。団野村に投球練習を見てもらえるまで辿り着きましたが、実力不足の判断を下されアメリカでの野球も断念。
そんな伊代野は台湾球界、四国アイランドリーグを経て31歳で競輪学校に入学。現在S級(競輪の一番上の階級)で頂点を目指してペダルを漕ぎ続けています。

この本を読んでいると「松坂世代」を太陽系に例えたくなってしまいます。松坂大輔はもちろん太陽。松坂との関係が濃い後藤武敏(横浜高校・西武でチームメイト)や平石洋介(PL学園出身)などは一番近い惑星・水星。「会話した記憶もない」伊代野などは太陽から一番離れた惑星・海王星。

しかし、太陽からは海王星は見えなくても、海王星から太陽はしっかりと見えているのです(たぶん)。接点はなくても、現在のもがき苦しむ松坂に対して「誰がなんと言おうと、松坂自身が楽しめたらそれでいいんですよ」と伊代野はエールを送ります。

松坂自身は本書の中で、
「野球が終わった後の人生のほうが長いんだから、まだまだ勝負は終わっていないぞ、って。僕のこの野球人生も含めて、どっちが良い人生を送れるかが勝負だぞ、って。それはみんなに言いたいことですね」
と語っています。

20年後、還暦を迎えた松坂世代ー
松坂世代の大外からまくってきた海王星・伊代野が競輪界のトップにたち、松坂と比肩していたら夢があっていいな。
そんなことを思いました。

「松坂世代、それから」

矢崎良一 (著)
インプレス
2420円(Kindle 2420円)

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