野球書店推薦本「衣笠祥雄 最後のシーズン」

野球書店推薦本「衣笠祥雄 最後のシーズン」

■店主推薦本(11)

「衣笠祥雄 最後のシーズン」

(著者:山際淳司/出版社:KADOKAWA/価格:907円 Kindle版:903円)

店主の感想

国民栄誉書受賞者も若手時代は荒れていた!?
ダンディー衣笠と先代オーナーとの絆

タイトルと表紙からは「衣笠祥雄の本」としか思えませんが、衣笠以外にも星野仙一、根本陸夫、村田兆治、東尾修、荒木大輔、落合博満、田淵幸一、江夏豊といった70〜80年代のプロ野球ファンにはたまらない人物たちの作品も収められています。しかし、そのことがタイトルと表紙からは伝わっていないように思います。とてももったいないと思うのは店主だけでしょうか?

とはいえ、やはり一番面白かったのは衣笠の章で間違いありません。

以前、野球評論家の金村義明氏が著書でこんなことを言っていました(うろ覚えですが)。
「帰国した野茂を囲んで飲んでいたら同じ店内で飲んでいた衣笠さんが気づいて『野茂くんじゃないか!』と言ってやってきた。こちらが恐縮していると『ひとこと、君の活躍をねぎらいたかっただけだから』といって、そのまま去って行かれた。球界の大先輩であんなにすごい方なのに全然偉ぶるところがなかった」。

そう、衣笠といえば立ち振る舞いがスマートでダンディーなのです。この本にもそれをうかがわせるエピソードが詰まっていました。

衣笠ダンディー伝説

・監督がマツダの小型車に乗っていたにも関わらず、高校を卒業したての衣笠は契約金で買ったメタリックブルーの中古の巨大なフォードに乗っていた。
・「ホームランを打ちたかったらドライ・マティーニにかぎる」衣笠はそういってグラスを干した。
・衣笠はジャズをクラシックを好んで聴く。ジャズ喫茶でドライ・マティーニを飲む。好きなのはジョン・コルトレーン。
・衣笠はシーズンオフに夫人を連れてよくニューヨークを訪れた。目的地はメトロポリタン・ミュージアム、モルガン・ミュージアム、そしてクーパーズタウンなどだ。
・本拠地でのデーゲーム終了後は一切の仕事を受けない。明るいうちに帰宅して庭でBBQをして子供達と話す時間を何よりも大切にしていた。

さて、衣笠はあれほどの実績を残しながら、なぜ盟友山本浩二のように広島の監督にならなかったのでしょうか? 生前、本人は「僕は処世術が上手くないから」のようなことを言っていました。「衣笠は松田オーナーに嫌われているから広島の監督になれない」という噂もきいたことがあります。しかし、この本にあるのは衣笠を我が子のように可愛がっていた先代の松田オーナー夫妻と、そんなオーナー夫妻を慕った衣笠の姿でした。

先代松田オーナーとの絆

・金遣いが荒く遊びまわっていた若手時代。松田オーナーが衣笠の給料を管理した。オーナーはそれをそっくり貯金しておき、衣笠が結婚したときに奥さんに通帳と印鑑を渡した。
・衣笠が遠征で不在の時は松田オーナーが衣笠の家に立ち寄り子供の相手をした。自分のお孫のように抱いて散歩に連れ出していた。
・衣笠がシーズン終了後にアメリカの教育リーグに派遣された。帰国後に衣笠は松田オーナーにループタイをお土産を買ってきた。松田オーナーは今でもそれを大切にしている(当時)。
・衣笠は子供が生まれるとよく松田オーナーの家に遊びに行った。子供はオーナー夫人を「おばあちゃん」と呼んで懐いた。
・衣笠は契約更改でもめたことがない。いつも提示金額を確認する前にハンコを押すつもりだった。

球史に残した成績以上に、人間としても非常に魅力的だったことが改めて伝わってきました。また、先代オーナーとのオーナーと選手という関係を越えた絆の話は読んでいてジーンときました。

この本には古き良き「昭和の野球」と共に、古き良き人間関係についてもまた、思い出させる懐かしさがありました。40代以上のプロ野球ファンの方々にぜひ読んでいただきたい一冊です。

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