野球書店推薦本「真夏の球譜(上)」

店主推薦本「真夏の球譜(上)」

■野球書店推薦本(8)

「真夏の球譜(上)」

著者:神奈川新聞社/出版社:神奈川新聞社/価格:864円

店主の感想

上下巻に分かれているのですが、上巻では主に神奈川の高校を卒業した過去、現在のプロ野球のスーパースターにスポットが当てられており、下巻では過去、現在の神奈川高校野球の名将、そして甲子園で神奈川代表校と戦ってきた全国の強豪校の名将たちに話を聞いています。今回は上巻の方を紹介させていただきます。

いろんな選手、監督さんたちの歴史に触れることができ、その度に点と点が繋がり、新たな発見に満ちた濃密な内容。改めて「全国一の激戦区神奈川」と呼ばれる所以がわかったような気がしました。

しかし、この本はそれだけではありません。表向きは神奈川高校野球の歴史と今を紹介する本なのですが、プロ野球で活躍する現役選手の口々から高校時代の暗部を語らせるなど、実は高校野球の問題点も浮き彫りにさせるという側面も持った本なのです(と店主は勝手に解釈しています)。

例えば、横浜高校時代の成瀬善久(東京ヤクルト)と渡辺元智監督のやりとりの場面。

高校最後の試合はわずか15球で終わった。唯一の心残りだ。2003年神奈川大会決勝。前夜、渡辺から急転直下の先発要請だった。「最後の夏だからお前で締めくくれ」。「無理です。投げられません」。成瀬は素直な感情を口にしていた。
(中略)
試合のたびに痛み止めの注射を打っていた左肩は限界だった。「決勝は涌井でいく」。前々から告げられていたから、決勝分の注射はなかった。だが、エースの「拒絶」は指揮官の逆鱗に触れた。春の雪辱のため、成瀬が投げないわけにはいかなかった。

これは思い出話というよりは告発に近いと思います。変な汗が出てきます。神奈川新聞さん、こんなこと書いて大丈夫なのでしょうか? これを拡散している自分の身も心配になってきます(最近でもなく昔でもない、2003年の出来事を掲載しているのが絶妙といえば絶妙)。

取材を受けた選手たちも旧知の記者からのインタビューで気を許したのか、「そこまで言って大丈夫?」と読んでいるこちらが心配するほどの際どい発言が並びます。

菅野智之(東海大相模/読売ジャイアンツ)
「子どもに野球はやらせたくない」
「(決勝戦を振り返り)正直早く終わって欲しいと思っていた。こんなに苦しいのは、早く終わってくれと。死ぬと思いましたもん」

筒香嘉智(横浜/横浜DeNAベイスターズ)
「高校野球のシステムを変えないと日本の野球界は変わらない。野球界だけですからね。こんなにぐちゃぐちゃしているのは」
「日本はだいぶ遅れていると感じる」

田澤純一(横浜商大/アナハイムエンゼルス)
「とりあえず走るっていうのが高校時代に多くて、無駄なことはしたくないということが高校時代(の反省)で身につきました」

宗佑磨(横浜隼人/オリックスバファローズ)
「日本の高校野球って、昔の軍隊のような名残が強いと思うんですよ。血へどを吐くような練習というか。それが2年半ですよね?長い長い。正直、もうやりたくないですね」

藤平尚真(横浜/東北楽天イーグルス)
(生まれ変わっても横浜を選ぶか?という問いに)
「行きたいけど、きつくて、レベルの高い練習をもう一度耐えることはできません…」

小笠原慎之介(東海大相模/中日ドラゴンズ)
(生まれ変わっても東海大相模を選ぶか?という問いに)
「選ばないです。同じところに進んでも同じようにはならない。私立はお金もかかるし、公立でのんびり野球を楽しんでいるかな」

PL学園のOBなどが高校時代の過酷な野球部生活を振り返り「2度と戻りたくありません!」と笑いを交えて話すのとは毛色の違う、選手たちの乾いた告白。

「あくまで本人たちが言ってます」という、神奈川新聞さんの巧妙なトラップが炸裂している気がします。選手たちが母校の監督さんたちに怒られないか心配です。

そんな中、高校時代をポジティブに振り返る選手がいました。

大田泰示(東海大相模/北海道日本ハムファイターズ)
「生まれ変わっても、また広島から『相模』に出てくる」

いいですね。自分で大田泰示というキャラクターを演じているようで好感が持てます。
ちなみに大田は高校時代、グラブに「俺は野球に恋をした」と刺繍して部長に大目玉を食らったことがあるそうです(笑)。

神奈川県の高校野球の歴史を学びながら、高校野球が抱える問題点についても考えることができるというナイスな一冊。神奈川県民ではなくても楽しめると思いますので、ぜひ読んでみてください。

 

 

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